11月1日のラ・トゥサン|モンマルトル墓地で見た、色とりどりの菊とフランスの「お盆」

 

11月1日は、フランスの祝日「ラ・トゥサン(La Toussaint/諸聖人の日)」です。

日本で言えば「お盆」の墓参りをイメージすると分かりやすいかもしれません。でも、ここフランスではちょっと違うのです。

私がそれを実感したのは、旅行会社の仕事でパリへ行き、15人ほどのお客様の「パリ・フリータイム」のツアーを添乗していたときのことでした。

添乗中、時間ができた11月1日

10月の終わりから11月の初めにかけて、10日間ほどパリに滞在していました。

宿泊していたのはプラース・クリシー界隈。モンマルトル墓地にも比較的近い場所です。

この辺りからモンマルトルへ向かえば、ムーラン・ルージュがあり、さらに坂を上っていくと映画『アメリ』のロケ地として知られるカフェ、その先にはサクレ・クール寺院があります。

11月1日は、お客様にとってもフリータイム。添乗員の私にも時間がたっぷりありました。

そこで、プラース・クリシーからモンマルトルの辺りを歩いてみることにしました。コーランクール通りを歩いているうちに、いつの間にかモンマルトル墓地へ入っていました。

モンマルトル墓地は10.48ヘクタール。東京ドームの建築面積を基準にすれば、約2.2個分の広さです。

秋のモンマルトル墓地をイメージした、石畳の小道と墓所に置かれた菊

※イメージ画像

「今日はフランスのお盆?」

墓地に入ってみると、人がたくさんいました。

なかでも家族連れが目立ち、花を持ってお墓を訪れ、それぞれの墓前で話をしたり、祈ったりしていました。墓前でも、家族の話に花が咲いている。そんな雰囲気です。

それを見ながら、私が最初に思ったのは、

「今日はフランスのお盆?」

ということでした。

そして、もう一つ気になったのが花です。

墓前に置かれている花の多くが菊。それも、私が見たものは切り花ではなく、鉢植えが中心でした。

黄色や白だけではありません。オレンジ、赤、ピンク……。実に色とりどりです。

私には「フランスの菊=墓地の花」という、どこか静かで暗いイメージがありましたから、目の前の華やかさには驚きました。

「一体どこが暗いイメージなんだ」

そんなことを思ったのを覚えています。

ところで、菊ってフランスにもあるの?

「ところで、菊ってフランスにもあるの?」とお思いではないですか?

もちろん、あります。

菊が属するキク科はとても大きな植物のグループで、ヒマワリ、タンポポ、コスモス、ヨモギ、春菊なども同じ仲間です。

日本でも、菊花紋章、菊人形、菊花賞など、「菊」という言葉はいろいろなところに登場します。私自身は、菊に「秋を彩る花」という印象を持っていました。

一方、フランスでは菊は墓地や死者の追悼と強く結びついています。日本でいう「仏花」のような位置づけでしょうか。

だからこそ、11月1日の墓地に並んだ色とりどりの鉢植えは、私にはとても印象的だったのです。

ラ・トゥサンの墓参をイメージした、墓前に置かれた白や黄、赤紫の菊

※イメージ画像

なぜフランスでは墓地に菊を飾るのか

フランスで菊が死者の追悼と強く結びつくようになった大きなきっかけの一つは、第一次世界大戦後の1919年とされています。

当時の大統領レイモン・ポアンカレが、11月11日の戦没者追悼にあたり、各地の戦没者慰霊碑を花で飾るよう求めました。その時期にちょうど見事に咲いていた菊が選ばれ、やがて墓地や死者を偲ぶ花として広く定着していったとされています。パリ市もこの経緯を紹介しています。

実際、菊は秋に見頃を迎える花です。

私がモンマルトル墓地で見た鉢植えの菊も、墓前を長く彩るためにはよくできた選択だな、と感じました。

11月1日と11月2日は何の日?

ラ・トゥサンは、カトリック教会がすべての聖人を記念する日です。

諸聖人を記念する習慣は古く、かつては地域によって祝う日も異なっていましたが、フランスのカトリック教会の案内では、835年に11月1日へ定められたと説明されています。

そして翌11月2日は、亡くなった人々のために祈る「死者の日」です。

カトリック中央協議会のカレンダーでも、11月1日は「諸聖人【祭日】」、11月2日は「死者の日」とされています。

フランスではこの時期に家族で墓地を訪れ、墓を整え、菊などの花を供えて故人を偲ぶ習慣が広く見られます。

つまり、私がモンマルトル墓地で目にした光景には、ちゃんと理由があったわけです。

秋の墓地をイメージした、落ち葉の散る石畳と墓前の菊

※ イメージ画像

旅先で偶然出会った、パリの文化

もちろん、ラ・トゥサンと日本のお盆は同じものではありません。宗教的な背景も由来も違います。

それでも、11月1日にたまたま墓地へ入り、家族がお墓を訪れ、色とりどりの菊を飾っている姿を目にした私には、

「フランスにも、お盆のような時間があるんだな」

と感じられました。

ガイドブックで「11月1日はラ・トゥサン」と読んだだけだったら、これほど印象には残らなかったと思います。

旅行の仕事を長くしていると、予定していた観光地とは別のところで、その土地の文化に出会うことがあります。

この日のモンマルトル墓地も、私にとってはそんな場所の一つでした。

黄色、白、オレンジ、赤、ピンク。

11月のパリの墓地を彩っていたたくさんの菊は、今でも忘れられないパリの光景です。

Writer|Georges Condrieu(ジョルジュ・コンドリュー)

旅行業界で47年、海外旅行の企画・手配・添乗に携わる。フランスへの渡航は50回以上。長年の現地経験をもとに、PMPではパリの文化や旅について執筆する。