テュイルリー庭園の西端に二つ大きな建物があります。「ジュ・ド・ポーム」と「オランジュリー」です。セーヌ川に近い方がオランジュリー、遠い方がジュ・ド・ポームです。
「ジュ・ド・ポーム」はオルセー美術館が開館するまでは印象派美術館として知られていました。現在はフランス国立写真センターを吸収し、近現代芸術に加えて映像芸術の展示もされているということです。
「オランジュリー」は近年はオルセー美術館と一体として運営されています。もともとはテュイルリー宮殿のオレンジを栽培する温室でしたが、1927年、モネの『睡蓮』の連作を収めるために美術館として整備されました。1階の一室がモネの睡蓮の展示のために当てられています。
ところで、「オランジュリー」とはもともとオレンジを栽培する温室のことで、17世紀以降、いろいろなところに造られました。ヴェルサイユ宮殿にもオランジュリーがあります。ルイ14世はこの果実を好み、年中食べられるように宮殿内に専用の温室を作らせました。ご承知のようにオレンジは暖かい地域に育つ果物です。そのために建物は特別な作りになっています。
温室だけあって、セーヌ川に面した南の面はガラス張りで、反対の面は北からの風を防ぐため、一面が壁になっています。もちろん、今はオレンジの栽培はしていませんが、南からの自然光を取り入れる形になっているため、絵画の鑑賞にはうってつけの美術館と言えます。
オランジュリー美術館は、有名なモネの「睡蓮」の他にもセザンヌ、マティス、モディリアーニ、ピカソ、ルノワール、シスレー、スーティン、ユトリロなどの作品を収蔵しています。
ところで、もう一つの建物の「ジュ・ド・ポーム」について少しお話ししておきましょう。「ジュ・ド・ポーム」とは、16世紀から17世紀のフランスで大流行したスポーツです。ポームは「手のひら」のことで、「手のゲーム」ということになります。元々は手でボールを打っていたのですが、そのうちに皮革の手袋や棒を使うようになり、最終的にはラケットになりました。そうです。このゲームはテニスの原型ということになります。
このゲームでは、選手は中央のネットから60ピエ(昔の長さの単位)のところに位置します。勝った場合、選手は中央のネットに少しずつ近づきます。その距離が最初は15ピエ、次にはまた15ピエで30ピエ、その次にはセンターラインにあまり近づきすぎないように10ピエ加算ということで40ピエになります。その次に勝つとゲームとなります。この点数がテニスの不思議な加点方法のもとになっています。
17世紀にはパリの至るところに競技場は建てられたようですが、流行は一時的なもので、次第にこの競技場は使われなくなります。この建物を再利用したのがパリの劇場です。
劇場は古代ギリシャから半円形のものが使われてきました。しかし、17世紀パリの劇場は競技場の再利用のため長方形でした。17世紀で一番ヒットした演劇作品、コルネイユが『ル・シッド」を初演したマレ座もこのタイプの劇場でした。1990年の映画『シラノ・ド・ベルジュラック』(主演はジェラール・ドパルデュー)の冒頭ではこの劇場が再現されていました。
フランス革命の時の「テニスコートの誓い」がありますが、ここでいう「テニスコート」もヴェルサイユにあった「ジュ・ド・ポーム」のことなのです。
MH