ヴェルサイユ宮殿はその広大な庭園も含めて直線で構成されている印象があります。宮殿内の鏡の間と呼ばれる空間はその当時の最高の技術で作られた鏡で壁面が覆われています。鏡の空間は当然直線で区切られています。
目を庭園のがわに転じてみると、アポロンの噴水まで延々と続く緑の絨毯とその先の大運河が見えます。
現地で空から見ることはできませんが、今はGoogleマップでを使えば、空からヴェルサイユ宮殿の庭園を見ることができます。庭園は見事なまでに直線で幾何学模様が切り取られています。幾何学模様でないところは、マリー・アントワネットが作らせたプチ・トリアノンの庭園だけといえます。
庭園内の木々もこの直線の魔力から逃れることはできません。直線で切り取られた散歩道に沿った樹木は、散歩道に少しでも枝がはみ出さないよう、まるで定規をあてたかのように綺麗に剪定され、見事なまでの平面を見せています。
かつてヴェルサイユ宮殿の庭園を散策しているときに、この空間を維持するために、庭師の人たちがさまざまな器具を使って作業している場面を目撃しました。そのためのバリカン状の剪定器具をつけた専用の作業車がヴェルサイユ宮殿には配備されています。
ヨーロッパ人は古代ローマの時代から直線に対する偏愛に近いものがあったようです。古代ローマの時代に作られた街道の一部はまだあちこちに残っていますが、ひたすら直線でできた道路です。まるで人間が人間であるために、「自然」を「直線」で切り取ることが不可欠だといっているようです。
南フランスの Nissan-lez-Ensérune のそばで見かけた Étang de Montady は、直径約2キロの大きなサークルの中に、放射線状に切り取られた耕作地があります。まるで、自然を人間がコントロールしているとでもいうような印象がありました。
日本人の感性は、自然に徹底的に手を加えながら、そこに手を加えていない印象を与えることを目指します。京都のお寺の庭園は、手を加えていることがはっきりわかっているにも関わらず、そこに自然を感じさせる部分を残そうとします。そんなわけで日本では、昔の建築物は直線を嫌います。五重塔の屋根も微妙な曲線でできています。
フランスの庭園は見事に人の手が入った幾何学模様の美しさを感じさせますが、それがときどき日本人には辛くなる時があります。マリー・アントワネットも幾何学的精神に息苦しさを感じていたのかもしれません。
MH