イチゴの季節にフランスでイチゴを食べるとしたら、それは Fraise Chantilly(フレーズ・シャンティイ=イチゴのシャンティイ・クリーム添え)で、これこそが春を感じる一番のデザートです。
以前書きましたが、私がいつも泊まるホテルは17区ポルト・マイヨにあります。ホテルの前の道を渡って左側にあるレストランは人気店で、そこのメニューは単一、ステック・フリッツ(フランスでは赤身肉のステーキに、店により違うソースを掛けたものと、サラダとフレンチフライドボテトがセットになっている)。そしてデザートはオプションで、春早いころから夏前までしばらくの間フレーズ・シャンティイがあります。これがめっぽう美味しいのです。このように、クレーム・シャンティイはそもそもフランスのレストランでもカフェでもどこでも食べられるのですが、それはホイップクリームのことだろう、と日本では考える人が多いと思いますが、このクレーム・シャンティイは全く別物と思った方がよいのです。
なおここで覚えておくことは、フランスのレストランやカフェでシャンティイ(Chantilly)と書いてあったらそれはクレーム・シャンティイ添えのことです。
フランスではクレーム・シャンティイとは脂肪分30%以上含まれているクリームを使い、加える砂糖の量はクリームの重さの10%が目安です。これにバニラや好みで他の香料を加えます。そしてホイップクリームと違いかなり濃厚です。イチゴが旬でない季節には、タルトやアイスクリーム、マロンクリームなどにクレーム・シャンティイを添えて提供されることがあります。
では何故「シャンティイ」と言う名がつけられたのでしょうか。それは17世紀頃、貴族の大コンデ公がシャンティイ城を所有しており、仕えていたメートル・ドテル(館の支配人、給仕長)のFrançois Vatel(フランソワ・ヴァテル)が考案したから、と言うのが一般的な説明です。もっともこのシャンティイと言う場所はパリから近く、フランスの王の傍系が何世紀も暮らした場所柄から、食には拘りのある場所だったことは間違いありません。
この町「シャンティイ」はパリ北駅からSNCFに乗って約30分、Chantilly-Gouvieux駅で降ります。そしてそのシャンティイ城は8世紀に渡る歴史があり、ブルボン家の支流、コンデ公が所有してきましたが、19世紀になってコンデ公ルイ6世アンリが嫡子の無いまま亡くなったので、アンリ・ドルレアン、オマール公爵(1822-1897)がシャンティイ城を含む膨大な資産を相続したのです。なおこのアンリ・ドルレアンは1830年7月から始まる「7月王政」で「フランス人の王」と称したルイ・フィリップ(フランス最後の王)の5男にあたります。
そして1884年、シャンティイ城を含むシャンティイの所領及び収集した美術品などをことごとくフランス学士院へ寄贈し、これらを集めてコンデ美術館としました。
駅のすぐ前はシャンティイの競馬場。その周囲には広大な森が広がります。私は秋の良く晴れた日に行きまたが、森を散策しているとそこら中からリスが現れ、穏やかな日差しが葉陰から覗き、向こうに見えるシャンディイ城が青空に映えていました。
シャンティイの街にはショップやレストランがあり、美しいホテルもあります。パリ滞在中に時間の余裕があれば是非訪れ、1泊すれば良い思い出になることは間違いありません。
できれば春、イチゴの季節に。 お城の中の庭のレストランではシャンティイのFraise Chantilly を食べることができますから。
GK