フランス人は特に犬好きな人達だと思うのです。そしてフランスの犬はとにかく大人しい。躾がしっかりされているのです。
パリの地下鉄ではあまり見かけませんが、TGVに限らず列車の中やレストラン、カフェでは、床に腹ばいになり静かに座っている犬をよく見かけます。レストランではご主人様が食べているテーブルのすぐ下にいたりしますので、犬たちも食べ物を欲しがるのではないかと思うのですがそうでもありません。
また、街を歩いているといろいろなお店の前の歩道にちょこんと座ってご主人様が買い物を終えて出てくるのを待っている犬もよく見かけます。もちろんそうしたお店にはリードを掛けるカギ状の金具が入り口横にあったりします。
パリに行くことが多くなってから、仕事の為にしばしばタクシーを利用するようになりましたが、乗車してすぐ、右前の席に犬がいることに度々気が付きました。何台に一台は犬が助手席に座っていて涼しい顔でお出迎えをしてくれますが、ゴロンと丸くなって寝そべっているのもいます。フランスの犬はやはりご主人に似て愛想良くはありません。そもそもフランスのタクシーは助手席に客を乗せるのを嫌がります。なぜなら助手席はペットの犬の席、運転手個人用の席なのです。
ところで1800年代初頭までパリの街には「労働犬」が数多くいたのだそうです。
「フランダースの犬」のパトラッシュのような荷車引きの犬ですが、段々数が多くなると道端で出会う犬同士がケンカしたり、食べ物があるとその方向に近づこうとしたりして役に立たず、次第にいなくなったのです。もちろんこれは200年ほど昔の古い話ですから動物虐待と言う時代ではありませんでした。
その1800年代も復古王政からナポレオン三世の時代になると経済も活発になってきて生活に余裕が生まれたのか、犬のトリマーさん、犬の洗い屋さん、犬の仕立屋さん、と言ったビジネスが一部の富裕層向けではありましたが繁盛していたと言います。
一方犬の糞を集めて商売にする人々がいました。 パリ南の郊外からパリ市内13区と5区を流れ、オーステルリッツ河岸でセーヌに注いでいたビエーヴル川と言う名の小川がありました。ビエーヴルとはビーバーのことです。現在パリ市内にはこの川は存在しません。17世紀末からこの水を利用する染め物や皮革なめし加工などの作業場が集まり、19世紀末にはひどい環境の工場街になっていました。川は極端に汚染され悪臭を放つドブ川になり、「臭いものに蓋(ふた)」で次第に暗渠(あんきょ)化。下流の近郊とパリ市内の川は、1950年までに地中に消えてしまったのですが、この皮のなめしに犬の糞が役に立ち、そこに犬の糞を卸す仕事だったのです。
犬の糞の話が続きます。 私がパリに留学していた最初、憧れのパリの街をしきりに歩着き回っていたころの話です。毎日必ず遭遇してしまうのは犬の糞を踏んでしまう事でした。歩道にはそこら中に糞が落ちており、また街路樹の下の水やりのための重そうな金属網には、どこも必ず犬の糞がありました。
踏んでしまったな、と気づくとすぐに歩道の隅に寄り、靴の裏を何度も何度も擦り付けて糞を落とすのですが、そのヌルっとした気持ち悪さは住んでいたアパルトマンまで続き、部屋入口の下に敷いてある、日本で言えばタワシで作られた泥落しの敷物の上で再度徹底的に拭い、やっと部屋に入る気持ちになるのでした。
しかし状況に慣れればだんだん改善の余地があります。それから歩くときは歩道の前方を必ず確認しながら歩くようになったのです。それによって糞を回避ができるようになったのと、だんだんパリの街が見慣れて来てキョロキョロしなくなり、歩道の少し前方を確かめてから歩く余裕ができたのかもしれません。そしてその後度々フランスに行くことになった私は、ある時からパリの路上の犬の糞が少し減って来たことを感じるようになりました。
それはシラク元大統領がパリ市長時代に導入した「モトクロット」と言う犬糞吸い込み掃除機付き専用バイクのお陰があったのです。シラク市長が始めたことなので「シラクレット」とも言われていました。しかし費用が嵩むということから2004年には廃止されてしまいます。
その後犬を飼う人のマナーが良くなってきたことや、2002年にパリ市が制定した条例により、飼い主には犬の糞を拾う義務があり、違反者には罰金が科せられるようになります。それらが功を奏して何とか減って来たのですが、しかしそれでも中々減らない状況に、最近現パリ市長アンヌ・イダルゴはドローンによる犬の糞収集まで計画しているようです。
ところで話は変わりますが、フランス人が好む最近の犬種事情ですが、次のような順序になっています。1位:オーストラリアン・シェパード 2位:スタフォードシャー・ブルテリア 3位:マリノア 4位:ゴールデン・レトリーバー 5位:ジャーマン・シェパード・ドッグ その他にラブラドール・レトリーバーやビーグルなども入っています。
これらは日本で見かける犬種もありますがどうやら日本人とは好みが少し違います。ところがこのごろマンガを通してだと思われるのですが日本犬のことを知っている若者もいて、柴犬に人気が出てきているのです。
さて、2021年11月、フランスで「動物愛護に関する法案」が可決されました。2024年1月以降はペットショップでの犬と猫の販売が禁止になります。ブリーダーからの購入や保護施設からの引き取りを希望する場合は、飼育に関する知識の有無などを証明する書類への署名が義務付けられます。この法律法施行の背景にはフランスで毎年10万匹の犬や猫が捨てられる事実がありました。「旅行に行けなくなる(バカンスが始まる時期は特に捨てられることが多い)」「お金がかかる」「アレルギーになった」「なつかず、可愛くなくなった」「衝動買いをしてしまった」など、結構勝手な理由で無責任に捨てられています。
このブログを書いているちょうど昨夜の France 2 のニュース中で、2021年には12,000 件の動物虐待犯罪が記録され、この5 年間で30%増加したとのことで、フランス内務省まで乗り出して専門部門の創設を発表したそうです。現在、これらの事件を担当する司法警察官が15人いると言っていました。
(見出しのイラストと文中の一部は鹿島茂氏の「パリの秘密」中公文庫からの引用です)
GK