キシジョー氏が語るパリのアパルトマンの話
９５年までは7区セーヌ河畔の新建築のアパルトマンに住んでたんだ。
セーヌは見渡せるし、５０平米のテラス付きだ。夏の暮れなずむ頃、心地いい風に吹かれてテラスでワインでも飲んでさ、シアワセだったなあのころ。 しかし家賃は高かったな。 そのころ金回りが良かったからそんな暮らしもできたんだけどさ。
９６年からは１５区のテアトル街のこれまた新建築のアパルトマンで４階に住んでたよ。 地下に駐車場が付いてて、あれだよ、地下の通路は暗いし狭いし道路までの勾配がきつくてさ、道路に出るときさ、車の中のリモコンで駐車場の入り口の電動扉を開けて、ピューッと飛び出すと、歩道に人がいたりして、何度も人轢きそうになったよ。 あぶねえあぶねえ。 酔っ払って帰ってくることもしょっちゅうでさ、あの狭い入り口から地下に降りる通路、一度も自分の車傷つけたことなかったよ。
でさぁ、俺のアパルトマンの入り口の扉、いつも鍵掛かってなかったんだよ。 お前知ってたか。 そうだよな、時々来てたもんな。 そんな物騒な、とよく言われたけど、なあに、別に盗られて困るものは置いてなかったんだよ。 ピアノなんかもあったけど、ドロボーがさ、あんな重いもの持ってくかぁ。
時々階を間違えた同じアパルトマンの住民が、ひょっこり入ってくることがあったよ。 鍵が掛かってないんだから。 でもいきなり入るかぁー、自分の部屋はかぎかけてるだろうにさ。 なら、鍵ガチャガチャさせてから扉開けるよな、でも入ってくるんだから、オーパルドン、エクスキュゼモアとかなんとか言っちゃって、何度も聞いたよその言葉。
